岬のマヨイガ

失ったこと、戻れないこと、君がいてくれたこと。
岩手県・狐崎を舞台に、東日本大震災の記憶も交えつつ、居場所を失った2人の少女たちが家を見つけるまでの物語。
原作とは大幅に設定を変えているようですね。主人公・ユイは成人女性から17歳の女の子に設定されているし、その他にも色々。原作をまだ読めていないので単純な比較はできませんが、よかったです。
「昔々、あったずもな」から始まる、おばあちゃんのキワさんが語る昔話は、日本昔ばなしのような牧歌的な表現ではなく、スピード感溢れる作画で印象的。お話的にも緩急が生まれていて素敵でした。
爪痕の残る倒壊した街、その一方で野山の美しさ、料理の暖かさ、残され生きていく人の営みを丁寧に描いています。
古今東西の妖怪・ふしぎっとの存在もあって、大人から子供までわくわくして観られるのではないかと。
(河童が赤いのはびっくりしました。遠野駅前の河童像が赤いようなので、そこからとったのかな?)
震災のことを忘れてはならない、けれどそれ以上に、希望があることを忘れないで欲しい。
そのように、丁寧に、真摯に作品と向き合ったのだろうなぁという想いを感じ取れました。

Viva!公務員

ママ、僻地に左遷され続けてるけど、なんとかうまくやってるよ。
イタリア発、人種差別、男尊女卑、汚職、エスニックジョークなどセンシティブな笑いのオンパレードでありながら、総合的にはバランス良くまとめている作品。
主人公のケッコは幼い頃から公務員を夢見、晴れてその座に収まっている中年男性。しかし、不要な公務員を削減したい国のリストラに遭い、どんどん過酷な土地へ飛ばされてしまう。それでもケッコはたくましく抗い続け……。
最初こそとんでもないマザコンで、まるで公務員は神だというように横柄に振る舞い、どうしようもなさが描かれていたケッコ。北極での運命の出会いを経て、3人の父親が違う子どもたちの面倒を見ながら、左遷先でちょっとずつ成長していきます。
これくらい、楽をするために全力で働くし全力でしがみつく、ような図太い心地もいいのかもしれない。
ヒロインはケッコの新しい恋人・ヴァレリアですが、裏主人公はリストラ担当者の”鉄の女”・シローニ部長でしょう。
トムとジェリーのような攻防戦は面白く、最終的に、愛のための決断が大きな幸せを呼ぶのが良かったです。
それにしてもウズラ料理はどんな味がするんでしょうか。

友だちのうちはどこ?

大きな勇気、小さな冒険。イランでの日常を子供の目から、飾らない美しい映像で描き出した作品。
じっといたいけな眼差しのアハマッド。「次にノートを忘れてきたら退学だ」と宣告された友達・モハマッド・レザ=ネマツェデのノートを間違って持って帰ってしまい、大人たちからの追及を逃れ、こっそりと返しに行こうとするのですが……。
時代もあるのでしょうか、とにかく大人たちが全くといっていいほど話を聞いてくれない。子どもへのあしらい方、接し方がとてもリアル。
先生も、お母さんも、お祖父さんも、村で出会う大工の人も。2つの村を行き来して駆けずり回った挙げ句、唯一助けてくれようとするのはネマツェデが遊びに来ていたというおじいさん。しかし結局、彼が言っていたのは別の一家で、アハマッドは失意のまま帰宅することに。
(さすがにご飯も食べないで落ち込むアハマッドを、お母さんが心配して優しくする場面でちょっと安心。)
理不尽の中で、アハマッドの努力と友情は、最後にはすんなりと身を結びます。
この『すんなり』感が日常の延長線上にあっていい。今日の観点からすると些か子どもに対する思いやりがないのでは、と思えてしまうところを、ほっこりとした締めに持っていっています。

犬王

異形と盲人、駆け抜け続けた芸の道。7月に観に行ったものの記録。
アニメ『平家物語』の流れから興味を持った作品。びっくりするくらい平家源氏、鎌倉物が豊作ですね。ボヘミアン・ラプソディを観ていたらもっと楽しめるというお話だったようですが、そちらはまだ未見です。
犬王はぎょっとするルックスですが、愛嬌があり、こんな身の上を呪ってもおかしくないのに実にからりとした性格。
罰により父を失い、盲になった少年・友魚と意気投合し、それぞれ能楽、琵琶楽を極めようと協力し合います。
行く手を阻むのは外法に落ちた犬王の父。そして、評判になるにつれ彼らの新しく、破天荒な芸を排除しようとする動きも出てきて……。
緩急ついたお話で、全体的に素晴らしかったのですが、ちょっと間延びしているかな?という場面も。(友魚の乱杭歯が激しい「見届けようぜ」のところとか)
目を覆いたくなるような描写もあります。しかし彼らのむき出しの叫びは、この時代にこそ公開された意義があるのでしょう。
物語としても、時間の流れとしても。音響設備の整ったところでまた観たい。

ONE PIECE FILM RED

止まれなかった救済とその行く先。7月の『犬王』ぶりに映画館で観た作品。
ゲストキャラクター・ウタのキャラデザが告知された時点ですごくかわいいなと思っていて、やっと観に行けました。
主軸がウタで、現地にライブに観に行った気持ちにさせられること、それからこれまでのONE PIECEの映画とは脚本の傾向が異なること、総合して彼女が受け入れられるかどうかで好みが分かれそうな作品。ノリきれるか、ノリきれないか、もすごく大きいと思う。
関係性、能力、立場としても、色々と重要な要素が与えられているため、連載25周年目で出てくるには遅すぎた存在かもしれません。前作STAMPEDEでは「早すぎた」というロジャーの言葉が別の重要な場面で使われていましたが。
“麦わらの一味の物語”というよりかは、ウタと2人の父親、またこれまでスポットライトが当たることのなかったサブキャラクターたちにもそれぞれ視点を割り振った物語であったのかなと思います。要所要所がとても熱い。締め方はこれまでのONE PIECEの映画で一番好きだったかな。
そしてブリュレがかわいい。

ドラえもん のび太の新恐竜

のび太の疑似育児奮闘記。日本誕生のペガ・グリ・ドラコもそういう要素があったかと思いますが、新恐竜はより、「のび太とペットの友情の話」というよりは「子どもが子どもを育てようとする話」に思えました。
双子の恐竜、ミューとキュー。ミューは丈夫で食欲旺盛だが、キューは生まれつき体が小さく、最初はやっと食べられたものもうまく消化できず吐き戻してしまう。
のび太が焦って、ドラえもんを頼るのではなく、恐竜博士に助けを乞いに行くシーンは印象的。
そして成長しきった彼らのことを考え、元の時代の仲間たちのもとに返してあげようという話になっていくのですが。
群れに拒絶されたキューに対するスパルタ教育。賛否両論あるようですが、この時ののび太の状況を考えると、優しく諭して根気よく付き合うってことは難しいようにも思えるのですよね。飛べなきゃ受け入れてもらえないだろうという差し迫った問題もあるし。
隕石が降ってくるシーンの表現は怖かった。爆風と粉塵に巻き込まれるのは嫌だな……。
タイムパトロールがわっと出てきて、「恐竜が鳥へと分岐し生き延びる正史にするためにドラえもんたちの行いを見届ける」、等、要所要所、ちょっとこんがらがりました。
ラストシーン、のび太が自主的に練習に励み、ついに……ちょっとステップアップしたのかな、というのは爽やかな終わり方。

スティング

騙し、騙して、その果てに。先日BSプレミアムで放映していたのを視聴しました。
以前何度か視聴していますが、ほぼ”観た”という記憶は残っているが内容まで1から10まで覚えているわけではない状態でスタート。
出だしから「あっ!そういえばそうだった」の連続。しかしここでの詐欺が元でフッカーは大いなるツケを支払うことになる……。腕利きのヘンリー・ゴンドルフを旗手として、次々とルーサーのために集まってくる仲間たち。宿敵ロネガンは恐ろしいギャングのボス。それでも誰一人として臆さず、またそのことが執拗に描写されていないのが一種の爽やかさ、気高さを感じます。
ロレッタ……!そういえばそうだった。
本当にことが終わって一緒になっていたら、どんな生活が待っていたんだろうなぁ。
話が二転三転と転がっていき、観客までもが騙されるつくり。友情に篤い詐欺師たちの物語ですが、騙されるのが面白い、とかしてやられた、とかそういう心地よさを味わえます。何度観ても面白い。
しかしこの映画の音楽は幼少期にすり込まれたディズニーランドを思い出すので自動にワクワクしてしまう。

リザとキツネと恋する死者たち

幽霊も恋の病にかかるのか? 日本フェチが乱れ飛ぶ作品。
ハンガリー、ブタペストが舞台なのですがモチーフとしての日本が沢山出てきます。劇中歌は昭和の歌謡曲風だし、主人公のリザは日本歌手の幽霊(?)トミー谷と暮らしている。リザ、トミー谷、そして彼女を監視することになったゾルタンというおとぼけ警部補との三角関係。(三角といっていいものか、なにしろトミー谷の存在を知覚できるのはリザだけなので。しかも彼女はその好意に気づいていない……)
心がほっこりするようなラブストーリーというとアメリを思い出しますが、こっちはもうちょっとマニアックというか、演出がいちいちシュールです。映画というよりミュージックビデオを観ているような感覚。しかし奇抜すぎることもなく、お話の流れはしっかりしています。ラブ、コメディ、サスペンスが三位一体となっていて。全体的に気楽に観られる作品だと思います。パッケージを見るとおしゃれな感じのラブストーリーって雰囲気たっぷりですが、変な映画が観たいときにおすすめかも知れない。
それにしてもトミー谷のインパクトがいちいちすごかった……。

野いちご

老人の悪夢と現実。
BSでずいぶん前にやっていたものを今日やっと観終わりました。終始ゆったりと淡々と進み、目立たせようとする感じではない映画。
しかし主人公、イーサク教授が見る悪夢は妙に現実的であり、また苦いものが残ります。音楽の効果もあって、サスペンスじみたところも。作中で言われているほどイーサク教授が冷酷には見えなかったので、悪夢のシーンではただひたすらに可哀想に思えてしまいましたが、途中からイーサク教授の息子のお嫁さん、マリアンに心をつかまれました。
彼女、最初は表情も意味深なものがあるというか、笑顔を浮かべてはいるのですが満面の笑みでもなく、どこか冷徹な印象があったんですね。しかし旅の途中、終盤に差し掛かるあたりでマリアンの抱く不安の正体もわかり、そこでちょっと涙腺が緩みました。
この映画に出てくる人々は誰しも、大なり小なり問題にとらわれています。それは死に対する不安であったり、過去の幻影であったり、また、人と人との愛の有無であったりするわけです。
旅行に行くために同乗してくる若い三人組の存在が、この映画の薄暗さをずいぶん和らげている気がします。
とてもシンプルなストーリーですが、何より表情が活きる映画だと思いました。